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野試合SS・雪蔵その3 said the Hatter, “when the Queen bawled out ‘He s murdering the time! Off with his head!’ ” 狂人は言った。 「女王様は叫んだのさ。『やつは時間を殺した! 首を切ってしまえ!』とね」 --『不思議の国のアリス』より抜粋 訳:誤訳者 ◆ 時とは誰の持ち物なのでしょうか? 帽子屋は時と喧嘩して、だからずっと六時のティーパーティー。 少なくとも彼のものではないようです。 アリスは音楽の勉強の中で時を打つことをやっていますが、仲は悪くないようです。 誰のものでもないのなら、時とは時なりに勝手にやるしかないのでしょうか? 勝手に時を刻んでいる時計だって、自分なりにお付き合いをしています。 よって、誰のものでもない時はあなた自身のものでもない。そんな理屈は正しいのでは? ◆ 「どういうことなの……?」 眼鏡に愛された幼女リュネット・アンジュドローは困惑していた。 桜並木の戦いで廃糖蜜ラトンを倒し、セシルの下に戻って、そこで寝てしまった、それは覚えている。 あれからずっと寝過ごした? 有り得ないと彼女は彼女なりに感じる。 戦闘空間は『雪蔵【現代】』。アームカバーに嵌め込まれた迷宮時計は確かにそれを教えてくれる。 大問題だった。それは本来二十四時間前に決まって教えてくれるはずの情報であるはずなのに。 つまり、与えられた最低一日分の猶予をあれから知らないうちに使い果たした? どうやって? 困惑は、周囲を見渡すとさらに深まる。 深雪に囲まれた倉庫は数度に保たれ、かじかむような感覚を体幹から末端に向けていた。 白い雪に包囲されたのは積み上げられた野菜、米穀、日本酒……、そんな食品達である。 ここまでは幼女にも理解できる通り。 「あれはなんなの……?」 問題は雪中に埋もれていた。 まるで、華やかな街並みのショウウィンドウケースのように連なる巨大な円筒。 それはガラスで出来た檻だった。なぜかと言えば、中に女性のものらしきシルエットが見え隠れする。 表面は曇っていて、よくわからない。なのに、なぜそれが女性のものかわかるかって? 微塵と砕けたガラスがそれを証明していた。 文字通り、粒子となって虚空へと還っていくそれはどこか吹雪にも似ていた。 「ふー、私にそのような趣味はないのですが」 三つ巴の二人目、飴びいどろと共に転(まろ)び出る影があった。 「裸の……女の人なの」 言葉の通り、それは小柄な少女のものだった。 背の高さは流石に幼女を越すが、女性として平均的なびいどろに及ばぬ矮躯。 薄紫の髪色、閉じられた眼はその色を窺わせないが、上下する薄い胸板はそれでも、その蒼白の肌の持ち主が生きていることをかろうじて主張するようだった。 ただ、まるで人と変わらない、その姿には一点だけ染みが落されたような奇妙な点があった。 その首筋に突き刺さった時計のような花、それは彼女の肉を土壌にするようにして咲き誇っていた。 「私は飴びいどろ、あなたは?」 びいどろは両手を上げた。いわゆる敵意のないことを示す、ホールドアップというやつだ。 袖口、襟の中、視界に入るうちにも幾つか仕込まれた透明な暗器を確認しながら、ゆっくりと距離を開ける。無論、双方は第三者たる謎の人への警戒も欠かすことなかった。 「リュネット。リュネット・アンジュドローなの」 戸惑いながらも自己紹介を返すリュネットは照り返す雪の反射などから、びいどろの全身に仕込まれたガラスの器具を見破っていた。それでも、いきなり襲い掛かるようなことはしない。 戸惑い、悲しみ、怒り、希望、そういった様々な感情が織り交ぜになって、自分を見るその瞳をリュネットは知っていた。幼女は知っていた。時に手を上げることは自分の心を強く抉ってしまうことを。 だから、どうしてもその言葉を無視することは出来なかった。 「そう、リュネット、リュネットか。フランス語で眼鏡、いい名前ね」 「ありがとう、なの」 ガラス職人と眼鏡の関係については今更論じるまでもないだろう。 かつて古代欧州に一大文明を築いた眼鏡は、その技術の消失とともに長き中世の暗黒へと姿を変える。 そして、その闇を払ったのもまた眼鏡であった。裸眼に任せていれば居場所をなくしていた老人や弱者も、都市とともに光を得ることになり、やがてルネッサンスの到来と共にその結実の日を迎える。 そう、眼鏡の本来の姿とはやさしい光を通す文明の利器である。 何より、そのあるべきところに収まった眼鏡。 伝説とまで呼ばれるそれを見て、望まずして守銭奴とそしられることになってしまったびいどろのガラス職人としての誇りを刺激する。びいどろはそれを壊すようなことがしたくない。 「あー、一応だけど降参とかする気は」 「ないの」 だよね。わかりきった返答だが、少なくとも巻き込まれただけというわけじゃなさそうだ。 「それで、ここがどこかは……」 「知らないの」 手がかりなし。雪蔵というだけじゃあと思いつつ、改めてびいどろは警戒しつつ、視野を巡らせる。 あれは、私が出てきたガラス、だけど幾つか同じものが並んでるってことは……。 果たして、そこに映し出された輪郭は全く同じもので、かすれていながら嫌な想像を働かせるには十分だった。 「全く、ここでは一体何をやっているんだ?」 『我ら人工探偵の素体(スペア)の保管所、と言ってもわからないだろう?』 「「誰!?」」 慌て、二人の中間に横たわる唇を読むも、動く気配すらない。 「失礼な奴だな。時計草はそんなところにはいないよ」 くぐもった声に続いて、晴れやかな声が聞こえた。 「どこにいるの!?」 周囲を見回すも三つ巴の三人目、四人目らしき影は見えもせず。 「ここだよ、ここ」 大雪の中、爆発的に何かが膨れ上がったような、そんな爆ぜ方だった。 舞い上がった雪が私たちの体にとさとさと降りかかって、少し冷やされる。 雪中から控え目でない登場をしたのは、こんもりとしたコートを纏った白髪赤目の少女だった。 その顔は、先に見た裸の少女とよく似ていた。というよりそっくりだった。 「僕は風月藤原京。『私は柊時計草、この子の保護をしている』あっ、時計草。その言い方はどうなのさ! 『私は保護をしていると言ったんだ』あー、そうフェアプレイね、はいはい」 目の前にいるのは一人、なのに目まぐるしく同じ声で言い方を変えて、二重人格? びいどろとリュネットはお互いに距離を図りながら、三角形を描くようにして止まった。後ろ手に壁にぶつかったのだ。 『人工探偵とは、ある種のイネ科植物から作られる人造人間の一種。 とりあえず、それだけ頭に入れておけば問題ないだろう。そして、ここに置かれているのは魂を吹き込まれる前の未完成品だ』 「魂?」 『魂魄、プシュケ、ゴースト、21グラム……。呼び名は様々だけどね、我ら人工探偵はそれがどこから来てどこに還っていくのか、それを一端であれ解明できた、だからこそ存在を許されている』 「逆に言えば、魂あってこその人工探偵。魂は有限だから、ありとあらゆる平行世界の中でたった一人しか同時に存在することは出来ない。それがないなら目覚めることのなく、永遠に冬眠中というわけさ』 「で、その人工探偵(アンドロイド)の必要もない身体がこうもたくさん用意されてるのはどういうわけ?」 びいどろが急かすように聞く。 「まぁ、人間の探偵の治療にパーツ取りって線もないことはないんだけどね」 『むしろ、ここは私たちの治療用だよ』 「『ここは長野・門松工房第三保管所、人工探偵の故郷のひとつであり、我等の生まれた場所』」 さらりと、代わる代わる恐ろしげなことを囁く探偵たちにリュネットが身を震わせる。 もしかすると、その言葉から二人が辿った凄絶な道を想像して、自分のそれに置き換えてしまったのか。 『まぁ、そんな昔話は置いておこう』 「なぜなら」『貴様らは』 「『ここで死ぬのだからな』」 死刑宣告と時を同じくして、天井が崩落した。降り注ぐのは花。花。花、花、花。 花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花花。 リュネットはその中、パンジーの花束を見る。 三色菫(パンジー)。Panseeはフランス語で「パンジー」と「想い」の両義を含有する。 リュネットは、その「重い」に押し潰されそう、だった。 ◆ ある夏の日のよく晴れた日のことだった。 二人は花吹雪をもっとも堪能できる場所、屋根の上に立っていた。 「これで死んでくれたかな?」 『さぁ、時間稼ぎとはいえ無駄口を叩くことはなかったと思うけどな」 しかし――。 「まさか、別れ花のたっぷり詰まった棺の中に飛ばされるなんて」 そう、この雪蔵は藤原京が過去に能力『花刑法庭』をもって、世界から切断した孤立空間。 棺の主は、あの冷たいガラスケースのどこかに眠っていることだろう。この裁判は既に最終審まで結審済みだ。そんな、既に終わった空間にまで干渉してくるとは、恐ろしきは迷宮時計といったところか。 「葬り去った過去が追いかけてくるなんて、時逆順もなかなかやってくれるよね」 『いや、むしろ私達がここで果てることこそが、我等の望みだったのかもしれないな。お前の庭は能力の干渉を許さない。時計の存在すらあやふやな、”シシキリに勝った”世界の続きであるなら尚更だ』 「一点ものの時計はどっちだったかな? それじゃ僕が話してる時計草は夢? 幻?」 『さて、ね。むしろ……、おや裁判長、被告人の出廷みたいだ」 雪蔵、極々一般的な倉庫の上。 花びらが雪崩れ込んだ割れた天井から、びいどろは顔を出し、やがてその全身を屋根に載せる。その顔は憤怒の色に染まっている。 「探偵って名の付くのが殺人事件!? ふざけないでよ」 なるほど、尤もなことだ。 だが、探偵の仮説は確信へと変わる。 「やっぱり――」 「何がやっぱりよ、やっぱりって!」 『戦闘空間は雪蔵”内” だったね、ここが外であることは自明だと思うけれど』 「あっ」 「しかし、戦闘は終わっていないね。ここが僕の作った空間だからルールが上書きされた? 違うね。ここはもう、時逆順から、迷宮時計からも見捨てられた、そんな空間だから」 上空からサザンカが散った。その花はツバキと違い、花びらとなって舞い散る。 その一枚がそっとびいどろの肌に吸い付くと、水膨れを残して掻き消える。 この現象に、喋らせるのは危険と判断したびいどろはナイフを抜く。 幸い、相手は丸腰と見て腱を――狙った。 ! 受け止めたのは意外なことに、その華奢な指先だった。 「千葉流探偵術『丸に一つ鋏』」 法廷派は剣術を能くする流派である。その本分は、処断。 ただ只管(ひたすら)に断つこと、断じること。犯罪者を葬ることまでを領分に入れる。 指を鋏と見立て、断ち切る。守勢において、体幹を守る捨て札となりえない術ではあるが、その巻きけ、覆われた手袋をもって見事に受け止めていた。 それでも、指二本で受け止めた代償は大きい。その半ばまでを断たれ、『オリカミ』がはがれた後はケロイドと化し、醜い指先を――。血が舞った。量は多い。 一合、二合……。 ガラスを分解しながら付き合わされる楽器のような音。 「火傷?」 疑問を残像に、ガラスのナイフを更に振りかぶる。 受け止めるのは赤い花が散らされた振袖だった。 『そう、オリカミ。檻として閉じ込めるこの髪はお前を閉じ込め、離さない』 体の一部、血を媒介にして本来あり得ない長さを得た白髪は、びいどろを抱き留めるように包み込み、そして――! 慌てるようにして、解け、足元に落ちていく。 『ガラスのボディアーマー! 破片でも流し込まれたらたまらないな、いやッ!?』 袴の足元をブーツから安全靴に編み直しつつ、蹴撃! だが、これもガラスの弾力を利用して殺される。ガラスとは割れた時、双方向に飛び散るものであり、同時にびいどろはそれをある程度操作できる。 そう、本来体幹とは直結しない毛髪も、今や血を介して繋がっている。 人工探偵も身体構造は基本的に人間と変わらない。脳を潰されては象徴たる花冠(かかん)が残っていても絶命である。加えて、びいどろはガラスの中に強い透過性を持つフッ化水素酸を仕込んでいた。 腐食作用を利用したエッチング技法、ガラスの分解を行える『サラミ=トラミ』がこれを可能としたというと驚くだろうか。致死量1.5グラムを察知した時計草は迂闊に打ち合えない。 2mの毛髪、全身に仕込まれたガラスの暗器。 質量は互角、双方の腕前を考慮に入れれば、前者に軍配が上がるところだろうか。 接触を許さないのは後者だが、如何せん二対一。 舞い散る花々に傷が増えていくのはびいどろの方だ。ここに来て、狭い盤上で透明な壁に背もたれかかるようになる。探偵は、それを追わない。 「本当、勝ったのにどうしてこんな目に……」 びいどろは理不尽に巻き込まれた側だ。彼女にそういう権利はある。 だが、受諾されるかどうかはまた別の問題だ。 「平行世界は数あるけれど、勝ち残る可能性は一つだけ、そーいうこと」 『死刑執行人として、勝った後のおままごとをしているお前たちが不憫だっただけだ』 「どういう意味?」 『! 時計草、推理を続けろ! 引き受けた!』 水を引き連れて、飛び出してくる。 その姿は眼鏡を付け、羽を生やした幼女。そう、ここ盤外にすべてが至っても戦いが止むことはない。 「世界は、僕たちが負けた可能性を選択した。時を操る力は平行世界の存在を許さない。 最終的には、一人勝ち残るその可能性に収束するのならッ」 メガネ=カタ。その動作は眼鏡をかける→外す→かける、その単純な工程を踏んで完成する。 足の踏み込み、ぴんと張った背筋から手元へと至る。かける、外す、かける、それをほぼ同時。 いや、Ultra-Violet級は同時に至るが、それを行うことによってその速度は単純な幼女と眼鏡と掛算には留まらなかった。眼鏡の及ぶ範囲でなら、如何なる動きをも可能とする、そういうものなのだから。 探偵とガラス職人は圧倒された。 続き、積雪から生み出された水の植物が、稲枝が二つの体に絡みつく。 びいどろはそれに辟易しながらも、その動きを鈍らせる。水とガラス、器たる者にはよく吸い付くといったところだろうか。振り払い、切り払いながらもけして無視できるものではなかった。 「”勝った”という他の結果は邪魔だッ! しばらく独り歩きした後に消え去るしかないんだよ」 『ぐゥウゥうううウ!』 そして、探偵は苦悶の声をあげていた。 その新雪のような肌は、酸をかけられたように穴を開けていた。 見え隠れするのは火傷の跡、その全身は焼け爛れようとしていた。 「私たちが消えるしかないって!? そんなめちゃくちゃな理屈!」 反論は言葉の暴力をもって封じられる。 三人には、スノードロップの花が贈られた。ヒガンバナ科のこの可憐な花はある種の不吉な伝承をもって語られる。恋人に供えた一輪の花はその遺骸を一片の雪へと変えてしまう。 死を希望しよう、あなたの死を望みましょう。 一瞬だった。 「セ、セシル……嫌なの。一人はもう……」 「もう……会えないの……?」 降り積もる死に装束に、溶けない万年雪に押し潰されていく。 リュネットは、びいどろは、その手が雪のように半透明になっていくのをずっと見ていた。 そして、藤原京もまた、自身にも向けた死刑宣告を読み上げ続ける。 「どうして、戦いが止むことがないのか? ここは僕が作った、因果が既に断ち切られてしまった脱出不能の空間だから。最終処分場なき後に作られた世界の流刑地のひとつ。 既に断ち切られた可能性が逃げ込むには最適であり、また必然だった。 その気になれば、飢えて死ぬまで凍えて暮らすことも可能、だった。けれど、それは許されないことだった」 『ああ、お前たち「僕たち」は死んでいない。けれど、生きてもいない』 ◆ そして、最後に椿の花がぽとりと落ちました。 二人が属した千葉の家は武門の出であり、かの「法廷派」の祖、江藤新平を縁戚に持つという大家でした。 その家が凋落し、二人にとっての”父”がどのような凶行に走ったか、その一端は今回お見せしました。 この未回収の伏線がいかに結ばれるか、それはまた別の機会になりましょうが。 いずれ、二人はどこかで蘇るでしょう。魂、その人がその人であるという絶対的な指標。 それは滅んでいないのですから。 ひとつだけ、補足しておくと。人工探偵の魂は、元来天より降り注いだササニシキを種としました。 根の国より汲み上げた陸稲とはまた、謂れが違う。それだけ申し上げておきます。 また一方で、この物語はそれ以外の誰かに影響を及ぼすことはないでしょう。 おそらくは幼女とガラス職人、戦った当の本人たちでさえ。今も道を歩んでいる負けた世界にいる二人が、いつかこの可能性を見たとしても、きっと文字通りに夢と見て忘れてしまうのかもしれません。 けれど、願わくばこの一片(スノウピース)を誰かが拾い上げて、そして見てくれてさえいれば、きっと誰かの救いになるだろう、そう思います。 ――時とは誰の持ち物なのでしょうか? それを決めてしまうのが、戦いだと今は断じさせてください。 --『ダンゲロスSS4』より、美しくも残酷な世界に寄せる 著:翻訳者 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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四人戦SSその3 ――――合コン。 ――――それは、見知らぬ男女同士による、親睦を深め合う集い。 ◆◆◆◆ シュッ、チッ ボゥ……ジジ……―――― 眩いネオンに彩られた暗闇を眼下に、1点の熱を帯びた光が灯る。 夜のオフィス街。連なる摩天楼群。 高層ビルはひしめき立ち、人工的な明かりを以って自己主張している。 まるでその高さを、派手さを競いあっているかのようだ。 ネオンが放つ作り物の光とは対照的に。 マッチが灯す暖かみのある光。 灯りはゆっくりと煙草に近づいていき、その熱を分けてやる。 「スゥーッ____」 燻られた煙草の煙が、ゆっくりと肺に届けられる。 気管を巡った空気は鼻腔を抜け。 「フゥーッ____」 紫煙と共に、勢い良く体外へ放出される。 「戦いの前の一服は、最高だなぁ」 噴流煙は言葉を漏らすと、続けざまに煙を含んだ。 闇夜。無人の高層ビル群。その一角の屋上。 ここが、噴流煙の”夢の戦い”出現位置。 屋上には噴流煙以外の姿は無く。 周りには高低連なる無数のビルの群れ。 見下ろせば、眼下から照らし出されるネオンの光が沸き立ち。 見上げれば、より高いビルの群れが悠然と聳え立っている。 噴流煙が再び紫煙をくゆらせると、煙は瞬く間に霧散した。 ビル風だろう。うねりを上げた風がビルにその身をぶつけ、乱舞している。 シュッ、チッ ボゥ……ジジ……―――― 2本目の煙草に火を点け、噴流煙は思い返す。 先日見た“無色の夢”。 その最中、まるで煙が脳まで回ってきたかのように、頭の中に入り込んできた情報を。 「戦闘空間」、「対戦相手の名前・能力」、「戦闘のルール」、「戦闘空間での負傷」、「勝者と敗者への賞罰」。 自分同様、これらの情報は他の対戦相手にも知れ渡っている。 そう推理するのは当然の帰結であった。 「賞罰……ねぇ」 口内で反芻した煙ごと、吐き出される言葉。 噴流煙は、褒賞など望んでいない。 専ら現実の暮らし、学園での生活こそが彼の望むものだ。 何だったら、特別な夢を見たいヤツがいるのならば手を貸すのも良いとすら考えている。 ただ――――。 「――――煙草の無い世界に閉じ込められるのだけは堪らんらぁあ」 現実世界から持ち込んだ煙草の本数は500本。 早くも3本目の煙草に火を点ける。 そのまま力無く屋上の手すりに身を預けたのは。 その体勢が最も楽に街下を眺められたからだ。 街下からこちらを覗き込む、ボヤっとにじんだネオンの光。 まるで火の点いた煙草のようだ、と、噴流煙は苦笑した。 口に咥えた煙草の煙がゆらゆらと昇っていく。 バカと煙は何とやら。 煙に導かれるように、噴流煙は歩き始めた。 頂上を。一番高い場所を目指して。 ◆◆◆◆ ピリッ、ペリペリッ ベリベリリリリリ………… ビル風が巻き起こす喧騒を引き裂くかのように、 顔パックの剥がされる音が暗闇に響く。 夢の戦いは、転送時に身に着けていたものが持ち込まれるルール。 であれば。 白鳥沢ガバ子が日課としている、就寝前の顔パックが持ち込まれるのは至極当然の道理。 お肌のケアに何よりも大事なことは、継続すること。 目に見えない日々の努力こそが、白鳥沢ガバ子の真骨頂であった。 バリッ、ボリボリッ ムシャッ……ボリッ……―――― キメ細やかな肌。 その形成に必要な要素とは即ち。 そう、保湿と潤いである。 顔パックは肌の生成・維持に十分な湿度を保つ。 ならば、潤いは何を以って与えるか。 即ち、輪切りにしたきゅうり。 輪切りにしたきゅうりを、顔パックの上から貼り付ける。 90%以上もの水分で構成されるきゅうりの瑞々しさ。 それこそが、肌に潤いを与えるのに最も適している事を、白鳥沢ガバ子は理解している。 「ふむ。戦闘領域のう……」 立入禁止。 目前に立てかけられた看板を尻目に、白鳥沢ガバ子は思案する。 看板から伸びた有刺鉄線は、ゆるいうねりを生じながら、どこまでも伸びており、戦闘領域の外周を覆っていた。 まるで、外部からの侵入を拒むかのように。 まるで、内部からの逃走を阻むかのように。 「……なるほどのう」 ぷるん、と頬は弾み。零れるは笑み。 しっとりとキメの細やかな餅肌は、さながら赤ん坊の如し。 吹き荒れるビル風に頬を撫でられるも、その弾力で押し返す。 米の研ぎ汁。 栄養素の溶け込んだ水を塗布する事により、赤ちゃんの肌は完成する。 「グハハハハ! どれ、そろそろ向かうか。戦場にのう」 乙女の戦場とは是即ち、恋の始まる場所である。 恋の始まる場所とは。 決まっている。最もムードのある場所。 夜景を一望出来る、最も標高の高いビル。 そこでこそ、ロマンティックは始まる。 眩く照らされる、凛と輝くネオンの光。 まるで星屑の海のようだ、と、白鳥沢ガバ子は歓喜した。 「ククっ。ワシ、なんだか……」 「ドキドキしてきたわ」 恋する乙女の戦いが始まる。 ◆◆◆◆ ヤマノコが先ず確認したかったことは。 この空間における人間の存在。 対戦相手以外に果たして人間は存在するのか、という点である。 戦闘領域は「巨大な高層ビルが立ち並ぶ、無人のオフィス街」。 対戦相手以外の人間が存在しないことは、半ば無理やり理解させられた。 だが。それでも、ヤマノコは己が目で確かめたかった。 「……やっぱり、だれもいないね」 たくさんの灯りの下には、皆それぞれの生活があって。 灯り一つ一つに、誰かの願いがある。 おぼろ気だが芯のある光は、まるで、叶えたい願いごとのように思えた。 だから、確かめてみたかった。 自分には叶えたい願いなんてないから。 他の人が願うものを見てみたかったから。 そんな思いも露虚しく。 ヤマノコの行為は既に知りえた情報を確証づけるに過ぎなかった。 「……えっ?」 ヤマノコの小さな手と、ヘヴィ・アイアンの筋張った手。 繋いでいた手を、僅かながらも強く握られ、ヤマノコは思わず声を上げた。 「ヨー・プリティ・リル・ガール」 相も変わらぬ陽気な笑顔で微笑みかけるヘヴィ・アイアン。 ヤマノコの掌が、ヤマノコの心が、暖かいもので包まれる。 「安心しな」「大丈夫だ」 握られた手から伝わってくる言葉。 あの丘で聞いた、軽やかな音色。 あの丘で聞いた、大切なおまじない。 その言葉はヤマノコを強くした。 「……いこう?」 強く握り返し、視線を宙に投げる。 視線が射抜くは、闇を飲み込み、悠然と立ち尽くす鉄と光の世界。 それは、この領域で最も標高の高いビル。 少女と大男。 守られる者と守る者。 ネオンによって映し出された二つの影は、今再び闇夜に溶けていく。 ◆◆◆◆ 私、菱川結希は、ビルの屋上から街下を見下ろしていた。 眼下には無数のネオンが照らし出され。 上空には今にも落ちてきそうな夜空だけがあった。 恐らく、ここがこの戦闘領域で最も高いビルなのであろう。 そこが私の出現位置だったのは幸か不幸か、未だ知る由も無い。 高さにして700、いや、800mはあるだろうか。 少なくとも、文乃と一緒に昇ったスカイツリーよりも高いであろうことは容易に想像できた。 「はぁ~っ……」 思わず漏れ出た溜息を抑えようともせず、私はそこから動けずにいた。 キャンドルライトのように淡く広がったネオンの光は、いつか消える時が来るのだろうか。 くっきりと彩られた光もいつかその輝きを失くし、闇に飲み込まれる。 まるで、私の記憶のようだと悲哀する。 ――――アムネジアエンジン。 記憶と引き換えに瞬間的に身体能力を強化する、私の能力。 ギアを上げるほど、身体能力は向上する。 単純だが弱い能力では無いと考えていた。 だというのに。 「はぁ~っ……」 再び深い溜息が漏れる。 だというのに、私と同系統の身体強化能力者が、他にもあと2人いる。 これでは、必然的にシンプルな真っ向勝負になる、 言い換えれば、削り合いによる長期戦となることは想像に容易い。 その考察が、私の能力制約が、この戦いのルールが。 憂鬱という名で私に重く圧し掛かってきていた。 長期戦になるということは、それだけ能力の使用回数が増えるということだ。 能力の使用回数が増えれば、その分だけ私の記憶はくべられる。 そして、この戦闘のルールでは”肉体の負傷”は全て回復されるが、 消えた記憶は肉体の損傷に含まれるのか、という疑問がある。 私の考えでは、答えはNoだ。 記憶の損傷は、肉体に何らダメージを帯びていないのだから。 私の導いた三段論法が、否が応にも溜息を漏らさせる。 この場に文乃が居れば、「よく気づきましたねー。結希ちゃんは聡明ですねー」だなんて褒めてくれるだろうか。 有り得もしない自分の妄想に辟易する。 「はぁ~っ……えっ……?」 三度目の溜息が漏れると同時、言いようも無い圧力を感じた。 ここは、私達以外は無人の空間。 つまり。 「……敵!」 ガチリ、とスイッチを切り替える。 空気が淀む。 段々と近づいてくる圧力は、体の内側から内臓を弄られているかのようだ。 戦いの始まりを予感した私の胸は、私の意思とは無関係に脈動する。 ガチャッ ここ、屋上へと続く扉が勢い良く開かれる。 そこから飛び出してきた男は、私が予想だにしない言葉を発した。 「た……たすけてくれらぁーーーー!」 「……えっ?」 何かから必死に逃げ惑う男。 恐らく噴流煙であろう、の様子から、私の警鐘は全力で鳴り響いた。 違う! 圧力の正体はこの男ではない! 噴流煙も私と同じ……圧力にあてられ逃げてきたのだ! 「~~~~っ!?」 背骨に氷柱を刺し込まれたかと誤認するような悪寒を感じ、振り向かされた。 そこには。 動物の毛皮に身を包み、丸太のような太ももが印象的な2m近い巨漢の女の子が聳え立っていた。 「グハハハハ!屋上まで誘い出すだなんて……オヌシ、見かけによらずロマンチストじゃあ!のう?」 間違いない。 この女性こそ、白鳥沢ガバ子。 人呼んで――――。 ――――人類の到達点。 ◆◆◆◆ その重量感。 その威圧感。 戦車に砲塔を突きつけられた時も、きっとこのように感じるのだろう。 私は、額から染み出す汗を拭うことすら忘れていた。 のそり、のそり。 獲物を狙う肉食獣のように、ゆっくりと距離を詰めてくる白鳥沢ガバ子の姿を、ただ見ているだけしか出来なかった。 「ん?……ヌシ。菱川結希じゃな?」 「えっ……?あっ、はい」 思わず素っ頓狂な返事を返してしまうと。 白鳥沢ガバ子は、まるで山賊の酒宴を想起させるかのような、大きな笑い声をあげた。 「グッハッハッハ!そうか!ワシはとことん”ユキ”という名に縁がある。のう?」 白鳥沢ガバ子から感じる圧力は相も変わらずだが。 悪い人では無いのかもしれない。 そんな考えが頭をよぎった。 「そっちに居るのが噴流煙じゃな?残るは1人……いや、1組か。ガハハハハ」 どっこいしょ。空耳が聞こえた気がした。 そのまま、白鳥沢ガバ子はその場に腰を下ろす。 どうやら。 どうやら、即座に戦闘を開始するつもりでは無いらしいが。 この人は、本当に戦う気があるのだろうか。 そんな考えすら浮かんでくる。 釣られて私も腰を下ろそうとした、その瞬間。 白鳥沢ガバ子に押し倒された。 「危ないところじゃった。のう?」 先ほど私が居た位置には、黒ずんだヘドロ状の物体が蠢いている。 私は直感した。 これは。 「チッ!」 苦虫を噛み潰した顔で私達を見据えている、噴流煙の魔人能力だ。 キセルから煙を吸い上げ、再び宙を舞うヘドロ。 山賊染みたステップで回避しながら、白鳥沢ガバ子は私に告げてきた。 「むぅん。ならばここはワシが相手をしちゃろう」 「手出し無用じゃ。男女問題は常に1対1じゃあ!」 その申し出は正直、有り難かった。 噴流煙からしても、身体強化系能力者2人を一度に相手取るのは得策では無いだろう。 夢の戦い。 初戦。 噴流煙VS白鳥沢ガバ子。 ◆◆◆◆ 風が強く吹いていた。 うねりながら、地面からせり上がって来るビル風。 風は、気ままにその形を変える。 そして。 噴流煙の吐き出すヘドロもまた、風に煽られ躍動する。 予測不可能。変幻自在。 不規則に乱舞するヘドロが白鳥沢ガバ子を襲う。 「ぬうぅぅんっ!!」 雄叫びと同時に踏み抜かれるタイル。 畳返し、否、タイル返しとでも言うべきか。 直立に跳ね上げられたタイルは、その身を以って白鳥沢ガバ子を守る。 見れば、白鳥沢ガバ子の身体は、先ほどよりも一回り大きくなっているようだ。 息も荒々しく、太ももは牛の2,3頭をまとめて蹴り殺せるとすら思わせられる。 白鳥沢ガバ子の能力。コンカツ。 その特性は、ドキドキを力に変える。 噴流煙にとっての不運は、この場所で戦闘を行ってしまったことであろう。 「吊り橋効果」 恐怖心を恋のドキドキと錯覚させるそれは、この地上700、800mの高所では、否応なく効果を発揮する。 「グハハハハ!」 タイルを踏み抜きながら接敵する白鳥沢ガバ子の拳が、噴流煙を捉える。 噴流煙は、己の武器であるキセルごと腕をへし折られ、柵まで吹き飛ばされた。 噴流煙にとっての不運が、この場所で戦いを挑んでしまったことであるならば。 白鳥沢ガバ子の不運は、噴流煙のキセルを折ってしまったこと。 煙草の吸えなくなった噴流煙は、思いもよらぬ行動を取る。 禁 断 症 状 ゆっくりと近づいていく白鳥沢ガバ子。 噴流煙は、朦朧とした目で体勢を入れ替え、ガバ子を追い込むように柵に手をつく。 私は、この体勢を知っている。 壁ドン。 かつて文乃に冗談半分にやられたそれを思い返すと、 不思議と頬に熱が篭るのを感じた。 壁ドンの威力を、私は身を以って知っている。 これは、本能に訴えかける技だ。 女性であれば例外無く、この技から逃れる術は持たない。 かつて私がやられたそれは、女性同士によるものだ。 にもかかわらず、身体は熱を帯び、思考回路は停止した。 胸がドキドキするとは、あのような状態を言うのだろう。 もしも――――。 ――――もしもこれが、年頃の男女同士であれば。 ――――もしもこれを受けるのが、恋する乙女であれば。 その威力、筆舌に尽くし難い。 多分に漏れず、白鳥沢ガバ子はその動きを停止した。 先ほどまでの、全てを飲み込む濁流は。 油の切れたぜんまいロボのように、鈍音を漏らしながら動きを止めた。 思考回路はショート寸前であろうことは、傍から見ている私の目からも明らかであった。 そして。 あろうことか、噴流煙は。 そのまま――――。 ――――白鳥沢ガバ子の唇を奪った。 「ガバァッ!?」 それが噴流煙の攻撃だと気づいたのは。 白鳥沢ガバ子の口から漏れ出る黒ずくんだヘドロ状の物体が見えたからだ。 これが、噴流煙の奥の手。隠し持った刃。 口内を通じた直接投与。ゼロ距離からの射出。 だらり、と下げられた白鳥沢ガバ子の腕が、不規則に脈動している。 噴流煙は、なおもその唇を離さず、死にも等しい接吻を与え続ける。 白鳥沢ガバ子と言えど、ここから逃れられる技など皆無であろう。 …………技、という言葉を用いたのには理由がある。 もはや、あれは―――― ――――技ではない。 白鳥沢ガバ子の肉体が、赤く、どす黒く変色していく。 白鳥沢ガバ子の能力。コンカツ。 その特性は、ドキドキを力に変える。 そして、その効果は、幾重にも累積される! 吊り橋効果によるドキドキ。 唇を奪われたことによるドキドキ。 毒素による発熱、そして動悸。 積み重ねられたドキドキは、ガバ子の身体を何倍にも膨れ上がらせた。 そして。 「ぬううんっっっっ!!」 噴流煙を抱きしめ、そのまま脊椎を破壊する。 毒素ではなく血を吐いた噴流煙もろとも。 そのまま、2人は街下へと落ちていった。 「ガっ、ガバ子さん!」 私の伸ばした手は、白鳥沢ガバ子の手をするりと抜け。 落ちていく2人を、ただ見つめていることしか出来なかった。 そして。 ビルの壁を駆け上がってくる、もう1組の2人を眺めることしか出来なかった。 ◆◆◆◆ ビルの外壁を駆け上ってきた2人。 ヤマノコと、ヘヴィ・アイアン。 挨拶代わりとでも言わんばかりの蹴撃に、私の身体は容易く吹き飛ばされた。 まるで、2トン トラックに跳ねられたかのような衝撃。 鋭く走った鈍痛が、ゆっくりと悲鳴を上げ始める。 口の中一杯に広がる鉄錆の味を無理やり噛み締めさせられ、這いつくばることしか出来なかった。 「ヨー・プリティ・ガール。ダンスはここからだぜ?」 狙撃銃の如き威力と精密性は、的確に私の急所を打ち据える。 アムネジア・エンジンはすでに使っている。 否、使わされている。 消え行く記憶の中で、先ほど私が感じていた懸念が。 記憶の消去は回復しないのではないかという懸念が消え去ったのは、幸か、それとも不幸か。 アムネジアエンジンのギアを2速、3速と上げていくが、 それでもヘヴィ・アイアンの猛攻を御するには至らない。 「ぐっ……ゲ、フッ……」 猛攻という雨が止んだのは、私の腹部からヘヴィ・アイアンの拳が引き抜かれたからだ。 足が震え、膝を折る。 視界もぼやけ、ヘヴィ・アイアンの声だけがやけにはっきりと聞こえ始めた。 「ヨー・プリティ・リル・ガール。言っただろ?”安心しな””大丈夫だ”ってな」 隅で座っているヤマノコにかけるその言葉は、慈愛に満ちていた。 跪(ひざまず)いたまま、私はその光景を見ていた。 痛い。何でこんなことしてるんだっけ。 痛い。何で戦わなくちゃいけないんだっけ。 痛い。何で。 何で、帰らなくちゃいけないんだっけ。 ____私は、今でも思い出す。 ____1年前 ____全てが終わり、始まった ____あの瞬間を。 そうだ。 そうだったんだ。 あの時も、私は同じように跪いていたんだ。 そんな時。 文乃が差し伸べてくれた手が。 文乃が差し伸べてくれた景色が。 文乃が差し伸べてくれたその日から、白黒(モノクロ)の世界が色づき始めたんだ。 身体は立ち上がれる。 立ち上がる方法は知っている。 でも。 立ち上がれる私にしてくれたのは、文乃だ。 「文……乃……」 だから、私は立ち上がる。 立ち上がれる。 「ありがとう……」 何で帰りたいかだって?決まっている。 私にとって大事なものは、文乃との約束以外ない。 私にとって守りたいものは、文乃との約束以外ない。 私にとってのイチバンは―――― ――――文乃以外に、いるはずもない! 記憶の”重要度”が書き換わる。 アムネジアエンジンは、大事な記憶から順に消えていく。 ならば、私にとって大事な記憶とは、文乃との思い出に他ならない。 差し伸べてくれたその手があったから、私は強くなれた。 差し伸べてくれたその思い出が!私に力をくれた! 「アムネジアエンジン――――」 かつて私に力をくれた言葉を。記憶を。思い出を。 「――――オーバードライブ」 今再び、力に変えて! ◆◆◆◆ パンッ。 乾いた音が、私の後を追いてくる。 それが、空気の壁を破る音、音速を超えた際に生じる衝撃波(ソニックブーム)だとは気づくことが出来なかった。 だって。 私には、その乾いた音は、シャボン玉の割れる音に聞こえたから。 キラキラと煌くシャボン玉が。 キラキラと煌いた思い出が、まるでシャボン玉のように弾けたと思えたから。 「速く……! もっと、疾く……!」 ヘヴィ・アイアンが狙撃銃であるならば、私は散弾と形容するのが相応しい。 狙いなどなく。 ただ、ただひたすらに、一撃でも多く撃つ。 「ハッハーッ!楽しくなってきたぜプリティ・ガール!」 血飛沫が舞い、打撲音が木霊する。 文字通りの血の雨が、最も空に近い場所で降っている。 「ああああああっ!!」 足刀でヘヴィ・アイアンを弾き飛ばし、距離をとる。 僅かばかり、ヘヴィ・アイアンが笑った気がした。 ……恐らく、ヘヴィ・アイアンも気づいている。 否、戦っている私達しか気づけないだろう。 この勝負、不利なのは私の方だ。 ヘヴィ・アイアンと私の能力。 出力は恐らく互角。 ならば、明暗を分けるのは。 素体の強さに委ねられる。 過去、数々の伝説を作った偉大なる人物と、一介の女子大生。 どちらの肉体が優れているかなど、火を見るよりも明らかであろう。 だから。 「…………一撃に賭けるってかい?」 その通りだ。 このままじり貧であるならば、一撃に全てを賭ける。 文乃。 どうか私に。 ――――力を! ◆◆◆◆ ヘヴィ・アイアンは思い出していた。 愚直に向かっていった男のことを。 既に負けると分かって駆ける一人の男の思いを。 死ぬと分かって前へ進むと決めた男に対して、同じ志を持った男の思いを。 愚直に向かってくる菱川結希に、あの時の自分を重ねてしまった。 だから。 その迷いがヘヴィ・アイアンを鈍らせた―――― ――――刹那にも満たない戸惑いによって。 ◆◆◆◆ 「安心しな」「大丈夫だ」 その言葉は、ヤマノコを強くさせた。 そして。 「安心しな」「大丈夫だ」 その言葉は、ヤマノコを弱くさせた。 ヤマノコは気づけなかった。 否、戦っている2人しか気づけないだろう。 どちらが優勢かなど。 だから。 傷つき血を流すヘヴィ・アイアンの姿を見て、仕方無いだなどと思えなかった。 おきることがおきているだけ だなんて、思えるわけが無かった。 だから。 ヤマノコは願ってしまった。 「ヘヴィ・アイアンを…………まもって!」 ◆◆◆◆ 私の拳は、あっけなくヘヴィ・アイアンの眉間を打ち抜いた。 紙飛行機のように吹き飛ぶヘヴィ・アイアン。 だが。 その身体には、傷一つ無く。 その身体からは、先ほどまでの闘気が嘘のように消え去っていた。 「「えっ?」」 ヤマノコと私の声が反響する。 同時に、私は気づいた。 ヤマノコは、願いを使ったのだ。 内容は恐らく、ヘヴィ・アイアンを守るというもの。 でなければ、私の渾身の一撃で無傷だなどと考えられない。 しかし、その願いこそが勝敗を決定づけた。 ヘヴィ・アイアンの能力は、”守るもの”のために強くなるというもの。 ヤマノコが願ったその瞬間。 2人の関係は逆転したのだ。 ”守られる者”であるヤマノコが、”守る者”であるヘヴィ・アイアンを守った。 ヤマノコは、”守られる者”では無くなってしまったのだ。 「あ……あ……」 ヤマノコも気づいたのであろう。 最善と思われる願いが、ヘヴィ・アイアンにとって最悪の結果を招いてしまったことに。 ヘヴィ・アイアンも察したのか。 何も言葉を発しない。 ヤマノコは、今にも泣きそうな顔をしている。 「後は……」 後は、ヤマノコを倒せば私の勝利でこの戦いは終わる。 しかし。 しかし、私にヤマノコを攻撃することなど出来るだろうか。 失敗し、絶望し、泣きそうになっているヤマノコに。 私は、かつての自分を重ねてしまった。 そんなヤマノコを攻撃して手にした勝利で……文乃に胸を張って会うことが出来るだろうか。 「……良いんじゃよ。ヌシはそのままのヌシで良い」 私を現実に引き戻してくれたのは、 「ガバ子……さん!?」 恋する乙女の一言であった。 ◆◆◆◆ 噴流煙を背負ったまま、白鳥沢ガバ子は外壁をよじ登って来た。 「グハハハハ! 地面に落下する直前、そりゃもうドキドキしたわい!」 そう、極限までドキドキした乙女の胸は、落下の衝撃すらにも打ち勝ってみせたのだ。 「ガバ子さん……そのままで良いって……」 先ほど投げかけられた言葉を問いただす。 「そのままの意味じゃよ。ヌシは優しいヌシのままで良い」 でも……それじゃ、いつまでも勝負が…… 「のう。ヌシ、この夢の戦いについて、不思議に思わんか?」 言葉に詰まる私にかまわず、ガバ子は続ける。 「身体強化能力者が3人。そして、紛れを起こせる即死級の能力者が1人。どう考えても出来すぎたマッチングじゃあ」 「まるで……面白い戦いになるように仕掛けられたマッチング。そうは思わんか?」 「そう考えると……今度はおかしな事に気づくのう。面白い戦いになるよう仕掛けたマッチングなのに、場外負けがあるとはどういうことじゃ?面白い戦いなら、最後の1人になるまで闘わせるべきじゃろう」 「なんでじゃあ!?なんでじゃあ!?知りたい知りたーい!のう!?」 「……だから、ワシはこう考えた」 「戦闘可能領域。それは、場外負けのルールのためにあるわけではない」 「そこから先に進んで欲しくない。その領域までしか、この空間を作成出来んかったとな」 「……っ!」 「この空間を作ったのが誰かはわからんが」 「こんな巨大な空間、無尽蔵で作りきれるわけないからのう」 「この摩天楼群は、1km四方までしか作れなかったと考えちょる」 確かに、確かにガバ子の推理は一理ある。 マッチングの不自然さについては、私も思いついてはいた。 「のう。ヌシ。オムライスは好きか?」 「えっ?」 「オムライスは好きか?と聞いておる」 ふるふる、と首を横に振る。 文乃はオムライスを好物としているが、私は卵アレルギーなのだ。 「ククク。やはりヌシとは気が合いそうじゃ」 「ひよこになる前に食べられる卵が可愛そうじゃ。だから、ワシがひよこだったら」 「食べられる前に、殻をぶち破りたいと思うちょる」 「……この空間も壊せる。そういう事ですか?」 「察しが良いのお、ヌシ。GP(ガバ子・ポイント)1点じゃ」 「この空間を破壊できれば――――」 「――――全員、元の世界に戻れる。のう?」 最初は、この人は本当に戦う気があるのか疑った。 この人は、最初から戦う気なんてなかったんだ。 最初から、全員で脱出することを考えていたんだ。 この人には……敵わないなあ。 「どうじゃ?乗るか?」 ゆっくりと首を縦に振る。 話を聞いていたヤマノコ、ヘヴィ・アイアン、噴流煙も後につづく。 「でも……空間を壊すっていっても……壊す前に場外負けになっちゃうんじゃ……」 ふと沸いた疑問に対しても、ガバ子の回答は準備されていた。 「なら、場外負けにならないようにぶち壊せばええ」 そう言うと、ガバ子は上空を指で示した。 「空中には流石に、立ち入り禁止の看板もなかろう。のう?」 やっぱりこの人には敵わない。 そう思った矢先、ガバ子は屈伸運動を始めた。 このまま、空中へ跳び上がり、空間を破壊するつもりだ。 「それじゃ、一仕事してくるかのう」 白鳥沢ガバ子の能力。コンカツ。 その特性は、ドキドキを力に変える。 そして、その効果は、幾重にも累積される。 吊り橋効果によるドキドキ。 唇を奪われたことによるドキドキ。 毒素による発熱、そして動悸。 そして――――。 「グハハハ! しかし、こんなことをするやつは何者なんじゃろうなあ!」 「まるで神じゃ! 出来ることなら、一度拝んでみたいのう」 「ククっ。ワシ、なんだか……」 「ドキドキしてきたわ」 それは果たして恋心か。 神に対する想いを胸に秘め。 膨れ上がった肉体をバネに、ガバ子が宙を駆け上っていく。 夜空に光が灯り、視界が真っ白になる。 いつの間にか、私の足場は消えていて。 落ちていく、落ちていく、苦しみながら、もがきながら、伸ばした手は空を切る。 終わりを告げる時計の音を聞きながら、私は、奈落の底へと落とされた。 ――もがきながら、苦しみながら、私はどんどん落ちていく。 ――それにしてもおかしい、もう随分と長い間落ちている気がする。 ――ああ、息が苦しい。呼吸ができない。これはまるで……鼻を……つままれているような……? 「ふがっ!」 息苦しさで目を覚ますと、視界いっぱいに誰かの手が見えた。 「起きてください、ねぼすけさん」 「あ……文乃……」 「はい、文乃ですよー。よくわかりましたねー。それじゃあ聡明な結希ちゃんはなんで鼻を引っ張られてるかわかるかな~?」 ちらり、と時計を見やる。 試験の時間には……遅れていない。 ちゃんと帰ってこれた。 しかし、となると、鼻を摘まれている理由はさっぱり分からない。 大方、忘れてしまったのだろう。 今はただ、文乃に会えたことが嬉しくて仕方無い。 だから、私は文乃にこう伝えるんだ。 「文乃……ありがとう……」 ◆◆◆◆ 噴流 煙。 ヤマノコ(&神代の旗手 ヘヴィ・アイアン)。 菱川 結希。 そして、白鳥沢 ガバ子。 彼らの、彼女らの夢の戦いはクリアされた。 だが。 今までの戦いは序章にすぎず。 これから始まる戦いの前哨戦に過ぎなかった。 「グハハハハ! 神はまだこのゲームを続けるつもりか」 「ククっ。ワシ、なんだか……」 「ドキドキしてきたわ」 ――――合コン。 ――――それは、見知らぬ男女同士による、絆を深め合う集い。 ~~ダンゲロスSSドリームマッチ 了~~ ――――ダンゲロスSSドリームマッチSet2へ続く
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第一回戦SS・教会その1 ここは荒廃した古教会、かつては信仰篤き人々が集い祈りを奉げた聖地であり、そこへ軍靴が響き渡る。 「随分と待たせるじゃないかね剣士よ?」 優に2mを超す大男は少し不満気な顔をして檀上に佇んでいた。 「やれやれ、私の(迷宮)時計は気まぐれでね、持ち主の意志を無視して時間を標示するから困っているんだ」 懐から取り出してみせた時計はチッ、チッと無機質な音を奏で時を刻んでいく。 時刻は深夜0時丁度、餓えた狂狼が獲物を狩り出す頃―――――――――― 「まあ何だ、私は立ち話をしに来たわけではないのでね」 帯刀する斎藤一女の愛刀『摂州住池田鬼神丸国重』、鞘から抜かれ怪しく光るソレを、独自の型に構え臨戦態勢に入る。 この構えは、彼女が得意とする「左片手一本突き」を繰り出すのに適した型なのだ。 今にも飛び掛らんばかりの女剣士を前に、大男は「ちょっと待て!!」と慌てふためく。 「少しは我輩の話しも聴いては貰えないか?」 「・・・・・・・・・・・・良いだろう、話しくらいは聴いてやろう」 斎藤が愛刀を鞘に収めるのを見て、大男は話しを始めた――――――――― △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△ 「我輩の名はチャンプ、人は敬意を払い我輩を『ミスター・チャンプ』と呼んでいる!!」 「ほう、そのチャンプとやらが私に何の用かな?」 大男、ミスター・チャンプ(以降チャンプ)はこう告げた、「我輩に勝ち星を譲っては貰えぬか?」と。 その一言で場が一気に緊迫感に包まれた、斎藤は腰の刀を抜こうとするがチャンプは「最後まで話しを聴いてくれ(汗)」と制止する。 「我輩が所属する、『代々木ドワーフ採掘団』と言う組織が有ってな、そこには優秀なメディカルスタッフやイタコ、介錯人が揃っている」 チャンプが言うには、勝負の敗者は介錯人の手に掛かるものの、勝者に『迷宮時計』が譲渡された後、蘇生施術を行い敗者を『この世界』に留められると言う物だった。 もしチャンプの発言が事実だとしても、例えチャンプの行いが正しくても、はっきりしてるのはチャンプを『勝たせる』と言う事。 だが、例え危機的状況に陥ろうと斎藤は己の信念を枉げない。 「言いたいことはそれだけか?」 「なっ!ちゃんと話しを聴かなかったのか剣士!?」 「聴いてたさ、様は貴様を『勝たせる』んだろ?」 「そうだ!そうすればお主も『この世界』に留まれるんだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・やれやれ」 斎藤は溜め息をつくと再び刀を抜き出した、そして――――――――― 「お前は何も解ってないな」 斎藤が剣士たる所以、それは『悪・即・殺』と言うたった一つの信念。 彼女からすれば、相手が悪人だろうと善人だろうとどうでも良いこと、自分の前に立ちはだかる存在が『悪』なのだから。 「お前は私との死合が決まった時点でアウト(悪)なんだよ」 「剣士よ、我輩は無益な殺生を望まん!!何故お主はそうも闘おうとする!?」 「そんな単純な事も解らないとはな、なら冥途の土産に教えてやろう」 斎藤はその独特な体制から身体中の撥條を撓らせ疾走した。 「それは私が『剣士』だからさ」 「っ!!」 その速さは常人なら瞬間移動と錯覚するほどで、魔人とて例外ではなく『並』の魔人なら見失ってしまっただろう。 だが、百戦錬磨と謳われるチャンプはその屈強な肉体美で斎藤の一太刀を防いだのだ。 「一瞬姿が消えて焦ったぞ」 丸太のような豪腕が刃を通さずにいた、するとチャンプは返す刀で豪腕ラリアットを繰り出すではないか――――――――― しかし、斎藤は俊敏な動作でこれを避けると、そのまま後方に下がり距離を取った。 「やはり通常の剣撃は通用しないか」 「当たり前だ、我輩の肉体をそこらの魔人と一緒にするでない!!」 「確かにな、私も貴様の力量を過小評価していたようだ」 それならと、斎藤は先と同様の構えを取り、三度攻撃態勢に入る。 「何度も言うが、我輩に降伏しろ!!お主の刀では我輩の肉体を貫くことは出来んぞ!!」 「ふっ、それはどうかな?私を甘く見るなよ!!」 言うが早く斎藤は駆け出した、スピードは先程より速く正に神速に近い動作で左片手一本突きを繰り出した。 「だから言っただろう、私を甘く見るなと!!」 「何ぃっ!!」 斎藤の刀から冷気による白煙が発生し、みるみると刀が凍結してゆき、それは宛ら鋭利な氷柱の様な形へと変わっていた。 これが彼女、斎藤一女の魔人能力『氷狼(フェンリル)』の効果だった。 「がっ!!」 「だから言っただろう阿呆が、純度の高い氷は不純物の混ざった氷とは硬度が段違いなんだよ」 能力によって硬度の増した刀は、あれだけ刃が通らなかったチャンプのガードを意図も容易く貫通したのだった。 巨大な氷柱と化した刀は、チャンプの豪腕を貫き、彼の心臓をも射抜いており即死していた。 「やはりな、筋肉馬鹿は脳の中も筋肉だな」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 既に事切れた相手に蔑みの言葉を投げつける斎藤であった。 「まあ何だ、貴様の『時計』は私が有効活用しておくよ」 こうして一回戦目の第一試合は幕を閉じた―――――――――――――――(完) 「『時計』の能力を試せる相手はいないものか・・・・・・・・・・・・・・・」 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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634 名前:名無しさん@公民館でLR変更検討中[sage] 投稿日:2007/02/15(木) 13 18 29 ID mv09A/vj 625 ミステリー物で幻想怪奇モノ。江戸川乱歩、横溝正史あたりが好きなら読めると思う。 読めるというか雰囲気を理解できなくもないというか。 内容は精神病患者(心を病んでて、さらに記憶喪失)が 過去に自分が関わった事件のことをいろいろ考えてみたりみなかったり。 ミステリであるからには当然事件の解決役がいるんだけれど、本当にいるのかどうか怪しい。 でもいると仮定しないと話が進まないのでまずはその辺りから整理を付けようか。といったモノ。 文庫本で『日本怪奇小説集1・2』(創元推理文庫)っていうのがあるから まずこれを読んでみて楽しめるようだったら、ドグラマグラも読んでみるといいかも。 ドグラマグラと同時代のタイトルが多数収録されてる。
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長編SS(長期連載、シリーズ物など) 短編SS(読み切り、ショートショート、会話形式SSなど) 小ネタ・嘘予告(皆鯖スレ住人による投稿SSなど) 投稿絵(その他創作物) 長編? みんなでかんがえる聖杯戦争
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SSクラス 剣 重量ググバ 先制のチェクラス 槍 光槍のサマサ 炎のココ 親衛隊オルバ 弓 誘惑のガイガ 説得のリッキー お喋りユッカ 魔法 援炎のルート 援闇のゼロ 回復 看護師アミ・ナ 看護師アミ・マリー 看護師アミ・サンドラ
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ホラゲロワ本編 本編SS目次・時系列順 本編SS目次・投下順
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唯「私たちの歌を、聴いてください!」 唯「まるでパンドラボックスだね」 唯「けいおんSS新春お笑い選手権!」 唯「ああああムナクソ悪いムナクソ悪いよおおおおおお」 純「情熱的な牡羊座!」 和「唯、ちょっと宗教に興味ない?」 唯「放課後 百物語」 唯「お日様が出ていても全部が明るいわけじゃないんだよ」 唯「君へのメッセージ」 純「ついてないなぁ」 澪「次のブーケは誰の手に」
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SS47 ギー太も首ったけ 高校・大学と進んで、私が社会人になって3年目になった。 HTTのみんながそれぞれの道に進む中、私だけ就職先も決まらず、とりあえずバイトでもしようと思ったら偶然小さな楽器店から求人が出ていたのがすべての始まりだった。 「ああもう!これってピックアップ断線してないか?中はぐるの苦手なんだよな」 楽器屋さんで働けば“好きなドラム”と関われると思っていたけど、実際はギターの調整がメインですごく苦労した。 「田井中さん、中はぐるのは僕がやるから。スタジオのドラムのペダル見てくれないかな?」 「あ、マスター。ドラムなら任せてください。じゃあ、これお願いします。リアが極端に音が小さい症状です」 でも、店の主人は良い人だし、最近はドラム関係の仕事も増えてきてなんとか続けられている。 「マスター。スタジオの確認終わりました。あれ?どうかしましたか?」 スタジオでの仕事を終えて戻ると、マスターがぼ~っと立っていた。 「あ、ご苦労様。たいしたことじゃないんだけど…やっぱりたいしたことかな・・・」 「何かあったんですか?」 「さっきからあのギター持った人が店の前を行ったり来たりしてるんだけど、もしかしてあの人“平沢唯さん〝じゃないかな?」 マスターが指さした店の入り口に目をやると、帽子を深くかぶった小柄な人がギターを手にウロウロしていた。 「ああ、平沢唯ですね」 10年近く友達なんだから間違えるはずがない。 「うちみたいな小店に何か用かな?プロのミュージシャンなんて来たことないよ…田井中さんに任せた」 マスターはオロオロしながら修理中のギターを抱えて作業室に消えていった。 「そう言えば、マスターにまだHTTのこと話してなかったな…で、お客さん、いらっしゃいませ」 対応を任せられた私は自分から店の扉を開けて唯に話しかけた。 「りっちゃん?わ~りっちゃんだぁ!」 「ぐぇ…」 唯は私だと解るとギターごとタックルしてきた。 「しかし、いきなりどうしたんだよ?あ、この前出たアルバム良かったぞ」 大学卒業後、HTTは活動休止になったけど唯だけは積極的に音楽活動を続けて、遂に昨年メジャーデビューを果たしていた。 「ありがとう。りっちゃんも正社員になったんでしょ?おめでとう」 「ありがとさん。澪やムギと比べたら安月給でフル稼働してるけど、毎日楽しいよ。それで、今日はどうしたんだ?」 お互いに近況を報告し合ってから本題を切出した。 「うん。ギー太の調子が良くないみたいで、修理お願いしたいなって」 唯が手に持っていたギターを私に手渡した。 「そういう事か。うちのマスターはギターのリペア上手だぞ。大至急頼んでやるからちょっと待って・・・」 「りっちゃんにお願いしたいな」 ギー太を持ってマスターの居る部屋に行こうとしたら、唯がそう言った。 「いやいや、私電装関係苦手だし、ネック調整とか弦交換しかできないぞ?」 「それで十分だよ。お願いします!」 りっちゃん隊員ごっこを思い出したかのように唯が敬礼する。 「おいおい、それだけならそろそろ自分でできるようになろうぜ…プロのミュージシャンが泣くぞ?」 「いやぁ~ギー太がりっちゃんじゃなきゃ嫌だって言うから」 「ハイハイ」 唯を軽くあしらいながらギ―太の状態をチェックしていく。 電装関係はガリやノイズも無く完璧だったが、ネックが反っていたのとオクターブチューニングがずれていた。 「唯、お前弾いた後弦どれくらい緩めてる?ちょっと逆反りしてたから緩めすぎかもしれない」 「逆反り?」 「ごめん。聞いた私が悪かった…とりあえず、ペグ一巻半くらい緩めとけば良いから」 「わかった。一回と半分回せば良いんだね」 「そうそう。良し、オクターブチューニングも完璧!弾いてみろ唯」 調整が終わったギー太を唯に渡すと、懐かしいメロディが店の中を包み込んだ。 「U&Iだなそれ。懐かしいなぁ」 「完璧だよ。りっちゃん!ギー太も喜んでる」 「そりゃ良かった。私も平沢唯のギターを調整したっていう経歴ができて嬉しいよ」 「ねぇりっちゃん…これからもギー太の面倒見てくれる?」 HTTの曲に耳を傾けていると、ぽつりと唯が呟いた。 「おう。楽器屋店員りっちゃんに任せとけ。何時でも無料で見てやるよ」 私は得意げに返す。 「じゃあ、奥さんになって私の面倒も見てくれる?」 「任せと・・・え?」 end
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